2025/11/22 16:14

10月に開催したパスタ皿展についての記録です。
パスタが好きで、いつからパスタが好きだったのか考えてもはっきりとは思い出せないのですが、随分と前に読んだ村上春樹の小説の中で、旨そうなパスタやサンドイッチの描写が頭に刷り込まれているのかもしれません。それもあって、東京に住んでいた頃は目黒にあるトラットリア・チャオロという、イタリアの家庭料理をメインにしたレストランによく食べに行っていました。

パスタ皿展を企画したいと思ったのは、2年前くらいになります。ギャラリー内に並ぶ器と食材やお酒が並んだシーンが思い浮かび、山麓地でこんな展示会ができると来てくれる方も幸せだろうなと、妄想していました。
企画展でお声がけしたのは、山口市の木工作家 角俊弥さん、同じく山口市の陶芸家 うえのけいこさん、笠間市の陶芸家 船串篤司さんのお三方でした。
作風の違う3人にお声がけしたのは、家庭で作るパスタ料理の事を想像すると、イタリアンパスタや和風パスタ、スープパスタはアンチパスト。家庭によって様々なスタイルがあって、その中で思い描いた食卓を実現できる楽しみや、企画展のタイミングで今までとは毛色の違う作品に出会えるきっかけになればと考えていたからでした。


うえのけいこさんの作品をギャラリーに設置するのは初めてでしたが、私が自宅で使用していて、使い勝手や奥深さを身に沁みて感じていたので、ギャラリー内の移ろいの中で様々な表情を見るのが楽しみな作品でした。
絵付けの作品は会期前半で完売してしまいましたが、うえのさんの暮らしの中に自然に入り込んでいる動植物が、1日の暮らしを映すように器に描かれていました。(私も狙っていた作品がありましが、早々に旅立って行きました。)
絵付けをどう考えて行なっているか聞いてみたところ、「この子は最初からいたのよねぇ」と、器を形作った時に存在しているパターンや、イメージを転写しているパターンがあるようでした。なんとも良いバランスで器に描かれてできる作品は、慈悲深い魅力のあるものばかりでした。
角俊弥さんは、企画展の事をお話しした後に、パスタ皿になりそうなモノをと新な形の作品を含めて持ってきてくださいました。大まかに木取りした後、ノミや豆カンナ、彫刻刀などを使って完成に至るまで掘り続ける彼の作品は温もりの様な感情を持っており、どの作品も手に持つことでその温かさを感じられるモノでした。
地元のミズナラを彫った大きな丸皿や、チェリーのクラシカルな印象の木皿は食卓に存在するだけで、良い時間を作ってくれそうな、そんな感覚を受ける作品でした。
船串篤司さんの作品もギャラリーに設置するのは初めてでしたが、普段から食卓で使用していた事もあって、よく考えられたデザインとその精度は素晴らしいものがありました。皿のスタッキング(重ね方)と器の印象の両方からしっかり考えられた作品達は、家庭からプロの料理人まで様々な食卓好きの方々に響いているようでした。
料理を盛ったときに完成する。と船串さんが言われている様に、料理の背景となって食事を良い時間にしてくれる作品ばかりでした。
作風の違うお三方の作品でしたが、近くに置いてみるとお互いが主張しすぎる事もなく良いバランスで馴染んでいました。

会期中限定で、目黒のイタリアン、トラットリア・チャオロのラザニアやパスタソース、ソムリエが選ぶワインの販売も行いました。私が胃袋を掴まれて10年以上も経つチャオロの料理。企画展に来訪されたお客さんも楽しそうに選んでいたのが印象的でした。ギャラリーでの印象や空気感まで家庭に持ち帰れると良いなぁ、と常々思っている事が少し実現できたように思います。

そして、会期中に一日限定で日トと同じく山口市仁保にあるイタヤマノウエンさんにも、その日採れた野菜やおすすめの調味料や乾麺を持ってきていただきました。生野菜や、それを生業にしている方がいるだけで、空間はマルシェのような活気のある雰囲気になり、なんだか楽しい1日を過ごせました。
普段は常設展で、静かに営業している日とですがこうやって様々な方達が関わってくれる事で空間にも賑やかな記憶を纏う事になります。私自身も新しい刺激をもらいながら楽しく企画展を行うことができました。

関わっていただいた皆さん、ありがとうございました。

最後の写真はチャオロのカリオストロ風パスタソースを使ったパスタを、うえのけいこさんの大皿に入れたものです。