2025/03/29 12:14
先日、長崎県の陶芸家 都築明さんより、即興で作る12個の銀彩ぐい呑みが届きました。
2024年の酒器展の時にもいくつかお送りいただいた、即興で製作されたぐい呑み。梱包を解いて全てのぐい呑みを拝見した時の驚きはまだ記憶に新しい。
驚いたのは全てのぐい呑みが同じデザインの領域にいながら、しっかりと特徴を出しながらも、全体の均整をとるように製作されていたからです。製作する順番で均整を保とうと意識したのか、違う形状を作ろうとする頭の中で、描かれた形に対して、製作する「手」が無意識に全体を整えたのか。経験と修練から生まれた遊び心なのか。狙ってできる事では無いような気がして、彼の中にどんなデザインのフィルターが備わっているのかとても興味が湧きました。

今回の12個のぐい呑みを一列に並べて眺めてみました。
一つ一つの作品の完成度が高く、造形と機能、サイズ感のバランスが取れています。全部欲しいと思いつつも、ぐっと堪えて販売します。
ちなみに器の外側には、都築さんがノコ目と呼んでいる細かい線が罫書かれていて、その凹凸の中に白い色が見え隠れしています。使っているうちに経年変化で徐々に馴染んでくるそうです。
今まで、銀彩の器を使用したことがなかったので、前回の酒器展の際に一点ほど自分にと迎え入れて、使用してみました。
ぐい呑みに注がれた酒が光に反射して光を放ちながら揺らぐ様子は、非常に上品で感覚器官が繊細になり、味覚が敏感に反応しているように思えました。
銀であるが故に、経年変化があるのですが、徐々に燻銀の様な色に変化して落ち着いた面持ちになっていきます。使用する方の好みにはなりますが、私としては徐々に変化していく過程を楽しんで、またあの鮮やかな銀が見たいと思った時にでもメンテナンスしてあげれば良いと思います。(重曹を使って優しく拭き取ると輝きが戻ります)

内側から縁にかけて施された銀。内部に光を集めて上品に光ります。

外側。細かく手を動かして罫書かれているのがわかります。手作業による微細な揺れが重なって、全体の質感につながっています。手に収まる時にもこの質感が作用して、指先にぴたっと馴染みます。

都築さんの作品は小さなものでも格好良い署名が入ります。
最近、作品にサインが入ることによって起こる影響を、考えるタイミングがあって、私としてはサインがあった方がモノとしての寿命が伸びる確率が増すのでは無いかと思っています。以前、実家のものを整理している時に、処分するものや自分が譲り受けるもの、どなたかに譲るものなど分けていると、判別の基準が自分の好みや知識によって決まっている事に気づきました。その中で明らかな不用品は処分するのですが、どうして良いか分からないものに直面した時に、サインやメーカーなどが書かれているかどうかで調べる事もできるし、それがある事によって、ある程度の責任を持って生産されている事が窺えて、今の自分に分からなくても、いずれ分かる人が活かしてくれるかもしれない。と思うようになりました。そんな事もあって、気の通った作家さんと話す時には、作品にサインを書くことが手間でなければ、入れてみてはどうかと話しをする事があります。
純粋な、造形的なものの価値とは違うものではありますが、持続するための手段の一環としては良いような気がしています。


水面に映る光りと、透明感がゆらゆらと。晩酌を良い時間にしてくれます。
私にとっては新しい出会いとなった銀彩のぐい呑み。良い作品をありがとうございました。