2025/03/25 14:07

山口市の矢次木工所に依頼して製作していただいている、木製保存容器。

ブラックチェリーに乾性油仕上の蓋付き木製箱で、台所まわりで使いやすいサイズを想像してデザインしてあります。

我が家の朝はパン食で、妻がホームベーカリーで焼いてくれたり、好きなパン屋さんで買ってきたりと色々ですが、買ってきたものは紙袋のものと、ビニール袋のものがあって、次の朝に食べるまではそのまま置いておくのが常でした。

それに強い違和感を感じていた訳では無いのですが、パン屋さんに置いてあるパンは、裸のままとても美味しそうに並んでいて、そんなシーンを毎朝見られたら幸せだろうなぁとか、木の上に置いてあるパンは美味しそうに見えるなぁとか、朝の良いシーンを思い浮かべたのが始まりでした。(我が家ではパンの箱呼んでいます。そのうち名前を変えるかもしれません。)

台所まわりはよく見るととても賑やかで、さまざまな調味料や乾物、キッチンツールやカトラリーなど。全てのものを統一されたものや、本当に好きなものだけでまとめるのは難しく、味は好きだけどパッケージが微妙だったり、形は好きだけど色が合わないなど、よく考えると統率が取れていない部分は無意識で記憶から消しているような気がします。そういうこまごまとしたモノも、まとめて木の箱に入れておくと台所が整頓できるし、調味料や乾物であれば光が入らず保存状態も良くなる。

毎日見たり触ったりするものは、「飽きない」という感覚よりも、使っているうちに懐に入って徐々に好きになっていくものだと嬉しい。

パンを主軸に台所まわりで起こる事を妄想しながらスケッチを起こしました。


デザインしていく中で、微量でも口に入っても安全で、自分でもメンテナンスできて、持続的な物が良いと思い、木材としては硬度のある広葉樹に乾性油(亜麻仁油)を塗って仕上げてもらう事に至りました。

オイル仕上げは一般的に、強度は弱い(塗膜の硬さ)とされていますが、細かい傷や凹みを良い味として捉えれば、誰でもメンテナンスできるという点で持続強度があるんじゃないかなと、私なんかは思います。無垢材を使う理由は質感が良い事と、日常的に蓋の開け閉めで耳に入る音が心地良い事と、丁寧に使えば、木も呼吸しながら永続的に使えるのではないかという希望からです。

蓋も箱も角を大きく面取りしているのは、毎日指が触れる場所が柔らかい方が良い事と、落としたりぶつけたりした時に凹みにくい事。無垢材は呼吸しているので、若干の収縮や反りがでても大きな面取りによってそこまで目立たない事。箱の四隅に小さなチギリを入れているのは強度的な補強を目的としていますが、手の枯れた職人が作る仕口(しぐち)が残り、作品に奥行きを生み出してくれます。

理由は単純なものですが、それがデザインの特徴になっています。

スケッチをもとに矢次社長と製作過程や木材の流通・特徴など、細かく話し合ってブラックチェリーで製作する事になり、製品化に至りました。矢次木工所は山口市の老舗の建具屋さんで、昔は表具(襖など)を作っていた会社で、腕の良い職人さんを抱えています。


いつも図面を持っていくと、仕口や面取りの寸法まで細かい話をした後に「とりあえず作ってみるよ、できたら電話する。」とすぐに試作に取りかかってくれて、製品化できるものもあれば、コストを落とすことができず、製品化できなかったものも幾つかあります。製品化に至らない場合でも、試作費用は支払わせていただくのですが、「そんなにいらんよ。」といつも原価にも満たない作業料しか受け取ってもらえませんでした。




矢次さんから、「癌になってねぇ」と話しを聞かされたのが一昨年の年末ごろだったか、闘病しながらも精力的で前向きに仕事に向かっておられました。その頃、新しい製品の為の試作会議の時にも、流通や効率的に製作するための手順をどうするかなど、細かく教えてくれた後に、「俺が居なくなっても、知識は生きるから、がんばれよっ」と笑いながら声をかけてくださいました。


3月初旬に、木製保存容器を注文して2週間後、矢次木工所のすぐ先に住む木工作家の角さんから、矢次さんが亡くなった事を伝え聞いた。

盛大に行われた葬儀からも、情に厚い彼の仁義を感じられました。
後日、会社に連絡すると、担当の方が電話に出てくれて、今後はどうしようかとか、そもそも製作をしてくれるかなど聞いてみると、社長が受注していたものはとにかく全部作る。と職人の皆さんと話しをされていたそうで、最後に私が注文したものも順を追って製作してくださるとの事でした。しっかりと矢次さんの意志は継がれていました。
矢次さん、お会いしてから6年足らずという短い期間ではありましたが、大切な事を教えていただきました。ありがとうございました。

最後に、繋いでくださった方に、会いに行ってみますね。